2015年2月9日月曜日

「どうしてもシリア」史上初のパスポート没収!

外務省領事局旅券課は7日、内戦中のシリアへ渡航しようとした日本人戦場カメラマンの出国を阻止するため、旅券法(1951=昭和26年法律267号)に基づいてパスポートを返納するよう命令、事実上没収する措置を取りました。共同通信が7日夜に報じたのを皮切りに日本のマスメディアがこぞって報じているもので、紛争地域への渡航を強行しようとした一般人のパスポートを没収するのは史上初めてです。

朝日新聞は、今回旅券を返納させられた張本人が杉本祐一さん(58歳、新潟県出身)であると明かし、杉本さんへのインタビューに成功しています。それによると、杉本さんは2012年以降、反政府の立場を取るイスラム過激勢力とシリア政府軍の間の内戦で居住地を追われた難民たちが生活するキャンプを取材するため、シリアとイラク、トルコの3カ国にまたがる国境地帯に行こうと決め、ターキッシュエアラインズ(TK=THY、旧名トルコ航空)の成田発イスタンブール・ケマルアタチュルク空港行き直行便を予約していたといいます。

ところが、2014年に相次いで超過激勢力『イスラム国』に拘束された湯川遥菜さん(享年42歳、千葉県出身)と後藤健二さん(享年47歳、宮城県出身)が1月末から2月頭にかけて殺害され、日本政府は3カ国の国境地域に『退避を勧告します』の安全情報を出したにもかかわらず、杉本さんは

「こういう状況になったからこそ行くしかないんだ」

と思い立ち、どうしても行くという態度を変えませんでした。

旅券法19条の4では

「旅券の名義人の生命、身体又は財産の保護のために渡航を中止させる必要があると認められる場合」

には外務大臣か領事官(特命全権大使または総領事)の名において命令を出し、期限を切ってパスポートを返納させることができるとしています。期限までに応じなかった場合は、5年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科も可能)に処すという罰則も設けられています(旅券法23条の6)

同じ旅券法19条でも、2項(懲役2年以上の法定刑が定められている刑事犯罪で逮捕状発行=13条1項 または執行猶予付きの有罪判決を受けた=13条3項)により発給制限の対象となったことを理由とする返納命令は毎年数件出ており、最近では2011年(平成23年)にAV女優・小向美奈子容疑者(当時25歳、埼玉県出身)がフィリピン滞在中に覚醒剤取締法違反罪で逮捕状を出された例が有名です。この時は警視庁組織犯罪対策部の要請で旅券返納命令となり、小向容疑者は在マニラ日本大使館兼総領事部に出頭して渡航書の発給を受け、帰国、逮捕となっています。

ですが、4項による旅券返納命令は史上初めて。憲法22条の『渡航の自由』に抵触する恐れがあるとして、これまで一度も使われたことのない『伝家の宝刀』と化していたのです。外務大臣・岸田文雄(自民党、衆院広島1区)は内閣総理大臣・安倍晋三(自民党、衆院山口4区)にも相談。安倍首相が後藤氏殉死後の2日の参議院予算委員会集中審議の席上、

「主権者たる国民の生命と安全を守るのは政府の責任。その最高責任者は首相の私だ」

と発言していたのを受け、退避を勧告した3カ国国境に行ったのでは杉本さんがイスラム国に拘束されてしまう可能性が高いと判断。杉本さんのような紛争地域取材の経験が豊富なジャーナリスト、戦場カメラマンであったとしても憲法22条を金科玉条として行かせたのでは本人の命はもちろん日本の国益も損われる恐れがある、そういう取材に日本人がわざわざしゃしゃり出ていくよりも、リスクを取り切れる国(アメリカやイギリスを念頭に置いているものと董事長ふくちゃんは判断します)の大手マスコミに任せるべきだと結論付け、旅券課に宝刀を切るよう決断を迫ったとみられます。

董事長ふくちゃんは、杉本さんが日本を拠点とし、今回も成田から直行便でイスタンブールまでフライトしようとしたために大事になったのではないかと分析しています。もしこれが、イラク戦争直後の2004年(平成16年)に相次いで殺害された香田証生さんや橋田信介さんのようにイラクやシリアから遠く離れた第三国を拠点に活動していたとなれば、それこそ日本政府としても止めようがありません橋田さんは生前、タイのバンコクを拠点にしており、香田さんもカオサンのゲストハウスに泊まっていたといいます。杉本さんが第三国拠点だったら…それこそ考えるだけでぞっとします。

そして7日。旅券課の担当者は上越新幹線に飛び乗り、 杉本さんの自宅を訪れました。返納命令書と引き換えにパスポートを受け取ったのことですが、

「渡航と報道、言論の自由はどうなるんだ。突然のことで何とも困惑している」

と述べたと報道されています。これに対し、内閣官房長官・菅義偉(自民党、衆院神奈川2区)は

「ギリギリの慎重な検討の末に決めた。同胞を守るのはある意味国の責任だ。今後はケースバイケースで判断する」

と応えました。